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「さあ殺せ。今殺せ。私の前で、この命を終わらせろ」 「なに・・・を・・・」 一体、何を言っているんだC.C.は。殺す?彼を? 「なんだ、聞き漏らしたか?なら、もう一度言おう。お前が、お前の理想とするゼロでありたいのであれば、ここにいる三人を殺せ」 「ふざけているのか、C.C.」 「ふざけていない。言っただろう?これはお前の記憶の欠片。生きたいと願い死んだあいつの思い出で作られた偽りの命だ。これを殺すということは、お前という個の記憶が完全に消える事を意味する」 ゼロは英雄。 個としてではなく、世界のために存在するモノ。 罪を犯した過去の自分を消し去り、聖人に生まれ変わるためには、願いとギアスに関わる記憶全てを殺さなければならない。ここにあるのはその最後の欠片。 「そうだ、殺せ」 かけられた声に、ビクリと体が反応した。 それはC.C.ではなく、そこで寝ていたはずのちびゼロのものだった。いつの間にか起き、こちらを見上げていた。 「何でそんな・・・簡単に殺せなんて」 普通は言えない。 普通の人は簡単に殺せなんて言わない。 でも、彼ならいう。 笑いながら、殺せと言う。 知らないはずなのに、知っている。 強い、確信がある。 これが自分が自分を消そうとした結果なのか? 英雄となるために、消してしまった過去なのか? 罪を忘れても罪は消えない。 消えないのに、忘れてしまったことで自分の中では無かったことになる。 それは本当に正しいことなのか? 「迷うな。私達を殺せ」 迷いなく言われた言葉に、目の前が真っ暗になる。 簡単に、あっさりと、殺せと口にする姿に忘れかけていた怒りが噴出した。 「簡単に言うな!殺せなんて、殺すほうがどれほどの思いでっ!!どれだけの覚悟で、君を殺したと思っているんだ!!」 怒鳴りつけてハッとなった。 口にした言葉に自分で驚く。 殺した? だれが、誰を? いや、わかっている、知っている。 ゼロが殺した相手だから。 でも、ゼロはこんな感情を相手に向けてはいけない。 罪人を裁いたのだから、罪悪感と後悔を感じてはいけない。 ドス黒いタールが頭の中で渦を巻いているかのように、憎しみと悲しみ、絶望と希望、嫌悪と愛情が不快な感覚となって押し寄せてくる。ゼロには不要な人間としてのあらゆる感情が湧き出てくる。 何よりも消したかった絶望が、蘇る。 笑い声に顔を上げれば、魔女がケタケタと笑っていた。 「まるで死人のような顔だな、思い出したか?これが、何か」 今にも倒れそうなほど顔色を無くしたゼロに、魔女は楽しげに問いかけた。 大切なものを奪われた魔女は、怒りと悲しみを隠すために笑うのだ。 奪った相手を恨み憎み殺そうとするのではなく、あざ笑うのだ。 「わた、しは…」 グラリと視界が回る。 倒れそうな体を支え、ゆっくりとテーブルの上を見た。 「もういい、お前が苦しむ必要はない。私達を消せ”スザク”」 呼ばれた名前に、気づけが涙がこぼれ落ちていた。 「いや、だ」 幼い子供のように、呆然とした表情で、ふるふると首を振る。 「スザク」 「いやだ、いやだ、いやだ!!殺したくない、君を、殺したくないっ!君を、殺したくなかったんだ、ルルーシュっ!!」 ああ、そうだ、殺したくなかった。だけど憎しみで目が曇っていた僕は、それに気づかず殺してしまった。大切な人だったのにと、亡くしてから気づいてももう遅い。だけど、失った絶望にいつしか疲れてしまい、この感情が消えればいいのにと、これは枢木スザクの感情で、ゼロには不要なものだからと考え始めた。 ルルーシュと呼ばれたちびゼロは、しばらく考えた後その仮面を外した。 皇帝ルルーシュと、ジュリアスと同じ顔なのに、二人よりも幼く見えた。 「もう終わったことだ。俺たちはお前の言うルルーシュではない。お前の中にある記憶を寄せ集め、形作っただけの偽りの存在。ルルーシュを殺すわけじゃない」 ゼロの仮面を手にしたルルーシュが言う。 ああ、そうだ、どうしてわからなかったのだろう。このゼロは、ゼロの服ではなく、アッシュフォードの制服を着ていた。学生服の上に、マントと仮面。その違和感にも気づかず、学生服というヒントすら見ないようにしていた。これが誰なのか認識したくなくて。 今ならわかる。ルルーシュ・ランペルージとして生きていたゼロ、皇帝となったルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、記憶を消され軍師となったジュリアス・キングスレイ。彼とともに過ごした短い月日の間、彼を構成していた名前と姿。 「君はルルーシュだ!僕は君を殺さない!こうして生きられるなら、一緒に」 「無理だ。わかるだろう、皇帝も軍師ももう目を覚まさない。俺も間もなく眠りにつく。奇跡は永遠に続くものではないんだ」 「いやだ!君になら永遠にする方法だって思いつくはずだ!だから」 「スザク、俺はルルーシュではない。お前の中の思い出に過ぎない。お前の知る情報以上のものは持っていない」 「・・・っ」 スザクは言葉をつまらせ、絶望で顔を歪めた。 そう、どうにもならないことだ。 自然に消滅するか、殺されるかの二択ならば、スザクの意志で消させるべきだ。最初は、どうしてこんなことにと困惑した。体が小さくなったのもそうだが、3つに別れているなんて異常すぎた。その答えは、C.C.と会うことで得たが、まさか一時的に命を与えられただけのモノだったとは。泣きたくても泣けない、笑いたくても笑えない状況だ。 「ならっ…」 悲しげに顔を歪めたスザクは絞り出すように言った。 「戻ってきて。僕はもう、君のことを忘れたくない。確かに自分を消せば理想のゼロになるかもしれない。でもそれはダメだ。僕が犯した罪を忘れていいはずがない。憎しみも悲しみも、苦しみも知らない英雄なんて、人の心がわからない英雄なんて、存在する意味が無い。だからっ、消えないでよ!戻ってきて、ルルーシュ」 「まったく、面倒くさかった」 C.C.はソファーでだらしなく寝そべりながらピザを頬張った。 シャツ1枚を着ただけの姿で片手にチーズくん、片手にピザといういつものスタイルで、文句を言いながら大好物のピザを頬張る。 そもそも、枢木スザクは好きではない。 あいつが精神を病もうが死のうがなんとも思わない。 強いていうなら、ゼロを異常者にすることは許せないぐらいか。 「ああ、安心しろ。枢木スザクが自分という存在を消さない選択をしたことでチビどもは消え、あいつ自身にもに起きていた異常も回復に向かっている。ハリボテの英雄から英雄モドキぐらいにはなったんじゃないか?」 横になったまま手を伸ばし、炭酸飲料の入ったペットボトルを手に取った。ストローが差してあるため、起き上がること無くそのまま乾きを癒す。 「数百年生きてあんな現象は初めて見たが・・・まさかとは思うが、お前が一枚噛んでいた、ということはないだろうな?」 あの男の異常に気づき、ああいう現象を意図的に起こしたわけではないだろうな?と、C.C.はぎろりと睨んだ。今思えば十分ありえることだったからだ。 だが、そこにいる男は何も答えず口元に笑みを浮かべているだけだった。 |